「お大事に!」と男の子はロケットを投げた

娘と公園で遊んでいると、見ず知らずの子がいつの間にか合流して、一緒に遊んでいることがある。その日もそうだった。気づけば4歳ぐらいの男の子と娘が、「はじめまして」なんて野暮なあいさつを交わす隙もなく、顔と顔がくっつかんばかりの距離で遊んでいた。
男の子は、ビニール傘を膨らませたお手製のロケットを手にしていて、「ぷしゅー」と飛ばしていた。そして突然私の顔を見ると、澄んだ目でこうお願いしてきた。
「宇宙人になって」
出会って数分の相手に「宇宙人になって」。大人になった今の私には、絶対に言えない。そう感心しつつ「わかった」と答え、グピピピと私なりの宇宙人になりきって、男の子を追いかけた。
次の瞬間、彼は攻撃を開始した。お手製ロケットを、私に向かって投げ始めたのだ。ただしロケットは一つしかないから、投げては拾い、また投げる。顔を真っ赤にして、あらんかぎりの力を振り絞って、投げる。スペースXのロケットに比べたら強度が1兆分の1ほどしかないであろうビニールロケットは、ほどなくしてしぼみ始めた。それでも彼はめげない。攻撃の手を休めない。
「ぐわー!!」と迫真の演技で、口から見えない炎を吐く私(この時点で宇宙人という設定は崩壊しているが、攻撃に夢中の男の子は気づかない)。すると、落ちていく攻撃力を補おうとしたのか、彼はロケットを投げながら突然叫び始めた。
「お大事に!!」
何度も、何度も。投げるたびに「お大事に!!」と声をあげる。私は見えない尻尾を振り回し(もはや怪獣)、「まだまだー!ぐぇへへへ」と応戦しながら、内心、感動していた。
攻撃のときに声を出すと、威力が上がる。これは気のせいではないらしい。大学のテニス選手を対象にした研究では、声を出しながら打つと球速が平均3.8%上がったそうだ。でも、そこで飛び出したのが「お大事に」。相手を気づかう言葉だ。これでは、せっかくの技の威力が相殺されてしまうのではないか。
いや、きっとそうじゃない。彼のこれまでの人生で、その瞬間いちばん「心を込められる」言葉が、「お大事に!」だったのではないか。
ぐおっほほーー!!! 胸をおさえながら、ついに私は芝生に倒れ込んだ。地球人の男の子は、誰にも知られずに地球を救うことに成功したのだ。幾度となくロケット攻撃を受けた私の身体は、修復を望めないほど損傷していた。けれど「お大事に!」というケアの言葉のおかげで、心は満ち満ちに満ちていた。
