B1 MAGAZINE

PODCAST#ことばのBPM2026.10.15

#1-2 ことばのBPM、スタート!

約40分

「ことばのBPM」のジャケット。水色の背景に黄色の番組ロゴ、マイクを前に向かい合って笑顔で話す2人のイラスト

澤田智洋(コピーライター)と近内悠太(哲学研究者)による、テンポ感や直感を大事にする番組です。共感より換気。結論より躓き。贈与、あまり、遊び、身体などをめぐって、自在に、気ままに言葉を交わしていきます。

澤田智洋(コピーライター)
近内悠太(哲学研究者)

※音声の自動文字起こしをもとに、読みやすく編集しています。

  1. 澤田:はい、というわけで、まだ番組名が決まっていない番組の第2回になります。私、コピーライターの澤田と言います。そして?
  2. 近内:哲学者の近内です。よろしくお願いします。
  3. 澤田:いやー、いいっすね。今ちょっと第1回の後のバックヤードというか、楽屋で話してたんですけど、第1回目はとりあえず好きに話してみようみたいな感じで、お互い様子見だったんですけれども。この第2回は、ゆうりんから提案があって、最初の20分は発散しようと。
  4. 近内:うん。
  5. 澤田:発散して展開して、遊びまくる、寄り道しまくる。だけど最後の10分で、俺たち何の話してたんだっけっていうところで着地をつける。着地って創造性が必要になるから、着地クリエーションみたいなことを最後10分でやってみようか、っていう提案があったんで。そんな感じでいいですか?
  6. 近内:いや、やっぱり今ふと思ったのがね、そうそう。我を忘れるっていうのって大事だと思うんですよね。
  7. 澤田:大事ですね。
  8. 近内:我を忘れる。
  9. 澤田:我を忘れるのが大事。
  10. 近内:我に返るっていうのも大事じゃん。
  11. 澤田:なるほどね。
  12. 近内:まさに今日のこの2回分は、我を忘れる前半と、我に返る後半、みたいな。
  13. 澤田:あ、それはね、実はね、めちゃめちゃ話したいことがいっぱいある。やばい、我を忘れるかもしれない。
  14. 近内:30分ずつ。最後に我に返りましょう。
  15. 澤田:返ろう。

  1. 澤田:ゆうりんが出した新著、贈与をめぐる本について、実はね、何回か激論を交わしてきてるんだけれども。それこそ「虚」。
  2. 近内:虚?
  3. 澤田:うん。実と虚。
  4. 近内:実と虚。
  5. 澤田:実と虚の、なぜ人類にとって虚が必要か、みたいなことも含めて、旅をめぐりながら考えました、っていうゆうりんの考えが載っていて。で、紹介されてる事例がこれでいいんだっけ、みたいな議論がちょっと別のところであったんだけど。
  6. 近内:うん。
  7. 澤田:なんだろうな、カルト的な何かに回収されないか、みたいな。虚が大事って言いすぎると――
  8. 近内:言いすぎると。
  9. 澤田:虚と虚を分けないと。少なくとも「これはいい虚だ」っていうぐらいの言及がせめてないと、虚なるものだったら何でもいい、になっちゃうよと。いい虚とダメな虚があるよ、っていう基準なりコメントなりをつけないと――
  10. 近内:うんうん。
  11. 澤田:不健全な、変なふうに読まれてしまうリスクが高いんじゃないの、みたいなね。
  12. 澤田:だからまさにさ、カルト宗教とか陰謀論とかにハマる人たちというのは、もちろん、それぞれの人たちは自分なりに考えたり、研究したり調べたりしていて、頭がいい人も多いという前提なんだけれども。だけど大きな物語に飲み込まれることによって、ある種、我を忘れるじゃないですか。
  13. 近内:うん。
  14. 澤田:自分が作ってない大きな物語の中に包まれてしまうっていうか。で、そのままずーっとそのコミュニティの中にいるっていうことは、我に返る瞬間がないわけじゃないですか。
  15. 近内:はい、そうそうそう。
  16. 澤田:だから、奇しくも今ゆうりんが言った、我を忘れるっていうのと、我に返るっていうのが全部セット。要は片道切符なんじゃなくて、往復切符としての虚がまず重要なんじゃないかっていうのは、ゆうりんの本を読んですごく思ったんですよ。
  17. 近内:うん。
  18. 澤田:で、それを村上春樹が何かの本で、「ホワイトマジック」っていう言い方をしてて。白魔術かな。彼の造語なのかわかんないけど、まさに彼が『アンダーグラウンド』とかを書いてたときに、地下鉄サリン事件の被害者の方に――
  19. 近内:インタビュー。
  20. 澤田:インタビューしたじゃないですか。で、同時に、オウム真理教の中の人にもちょっと話を聞いた、っていう話をしていて。で、まさにオウム真理教っていうのは片道切符。
  21. 近内:うん。
  22. 澤田:要は、我を忘れるっていう一方通行しか用意されていなくて。そこは、混沌として混乱のある現世とは、バブルがはじけたつらい現世とは違って、ものすごく除菌された、美しい物語がある、整ったところで。そこに相対性はなく絶対性しかない、私たちの物語が唯一で正しいんだ、みたいな。で、村上春樹は、ブラックマジックって言ったかわかんないけど、彼の中ではそれはブラックマジックなんだよね。
  23. 近内:うん。
  24. 澤田:要は、我に返るっていうオプションが用意されていない物語としてブラックマジックと言っていて。一方で彼は、自分が書くような小説っていうのがまさにホワイトマジックだと言っていて。本は没入するけど、読み終わった瞬間、幕は降りるし、照明は明るくなるし、現実に帰っていくわけじゃない。で、ブラックマジックは「継続性の切断」だと言っていて。日常っていう継続性を完全にシャットアウト、切断して、別の文脈に取り込んでしまう。だから我に返るが用意されてないよね、みたいな。この辺どうすか?

  1. 近内:いや、俺もまさに今日の話のあたりで、我に返るって言おうと思ってて。まさに横にこれが置いてあってさ、今手元に。
  2. 澤田:おお、村上春樹。
  3. 近内:村上春樹のインタビュー集で、僕これすごく好きなんですけど、『夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです』っていう。この矛盾した表現。夢を見るために、毎朝僕は目覚めるのです。つまり、白昼夢というか、現実であると同時に夢である。逆に、日常っていうのは夢であると同時に現実であるっていうか。
  4. 澤田:めちゃめちゃいいですね。
  5. 近内:やっぱ往還、行ったり来たり。
  6. 澤田:往還だね。
  7. 近内:で、帰ってくるっていうね。そうそうそう、往還するっていう。日常と夢、日常と非日常の間の、ほら、澤田さんの言葉で言うと「反復横跳び」。
  8. 澤田:そうそうそう。なるほどね。
  9. 近内:やっぱね、僕、この戻ってくる物語がすごく好きというか、健全だなっていうか。すごくカタルシスがある気がしていて。戻ってこれた、みたいな。
  10. 澤田:そうだね。
  11. 近内:まさにね、村上春樹はやっぱり、向こうに行くんだけど、ちゃんと戻ってくるっていうことをすごく意識的にやってるんですよね。

  1. 近内:村上春樹が訳した、ほら、サリンジャーの『キャッチャー・イン・ザ・ライ』。
  2. 澤田:うん。
  3. 近内:あれにすごく素敵な表現があって。主人公の男の子が、確か妹か何かに――
  4. 澤田:ホールデン。
  5. 近内:そうそうそう。「お兄ちゃんは大人になって何になりたいの」って言われたら、急にメタファーを語るんだよね。ライ麦畑が目の前にある。
  6. 澤田:うんうん。
  7. 近内:ライ麦畑で、ちっちゃい子どもたちがバーって遊んでるんだけど。多分ライ麦畑って見通しが悪いってところなんだ。ライ麦って多分それなりに背が高いから、子どもたちがいると、その向こう側が見通せない。
  8. 澤田:落ちてきたらキャッチしたい、ってやつね。
  9. 近内:そう。で、村上春樹訳だと――他の訳だとどうなってるか分からないけど。
  10. 澤田:うん。
  11. 近内:ライ麦畑で子どもたちが遊んでるんだけど、そのライ麦畑のちょっと行ったところには、「クレイジーな崖っぷち」が広がっていて。
  12. 澤田:おー。
  13. 近内:子どもたちがうっかりその崖っぷちから落ちちゃいそうになるのを、捕まえてあげる人になりたいんだ。だからキャッチャー。
  14. 澤田:おー。
  15. 近内:「クレイジーな崖っぷち」って言い方をして。
  16. 澤田:崖っぷち。はぁー。
  17. 近内:それが、カルトとか、さっき言った夢から帰って来れなくなってしまう――
  18. 澤田:うんうんうん。
  19. 近内:まさにクレイジーな崖っぷち。
  20. 澤田:それは素晴らしい一節っていうか、もう世界に残る心象風景だと思うんだけど。
  21. 近内:でしょ? この子どもたちは、多分僕らでもあると思うんだよね。
  22. 澤田:うんうん。
  23. 近内:見えない、不確実な、VUCAじゃないけど、VUCA以前からずっとある、人類の黎明の頃からある――
  24. 澤田:うんうん。
  25. 近内:多分、ライ麦畑。つまり、先が見通せない。
  26. 澤田:うんうんうん。
  27. 近内:近くに仲間がいるから声は聞こえるけど、仲間がライ麦畑のどこに今いるのかっていうのは見えない中で――
  28. 澤田:面白い面白い。
  29. 近内:やっぱり、もっとバーって、もっと速く走りたいって突き抜けちゃったら、クレイジーな崖っぷちに「やばっ!」ってなる。子どもたちがクレイジーな崖っぷちに向かって突っ走っていっちゃうのを捕まえる、そんな大人になりたいっていうのを、確か主人公のホールデンが言うのかな。
  30. 澤田:言ってる言ってる。しかも小説の超終盤の方だった気がする。
  31. 近内:ね。ここで主題が出てくるんだ、みたいな。

  1. 澤田:いや、なるほどね。だからやっぱり、ゆうりんが言うところの贈与よ。例えば、もちろんそうなんだけど、サンタクロースみたいなものも、いつか私たちは、あ、サンタクロースはいなくて、親から受け取っちゃってたんだ、ってなる。
  2. 近内:うん。
  3. 澤田:要は、サンタクロースっていう、自分と関わりのない、血縁関係のない存在からの受け取り物だとしたら、返礼義務がないっていうか、返礼しようがないんだけれども。親から受け取ってしまってたんだってことは、自分が次の世代に同じことをやらなくちゃいけないっていう、バトンの輪郭がはっきりするっていうか。だから、永遠にサンタクロースっていう虚の世界の中に生きるわけではなく、我に返るからこそ、虚は成立しているというか。
  4. 近内:うん。
  5. 澤田:で、祭りもそうだよね。めちゃめちゃ「うわー、みこし担いでるなー」とか。あとサッカーもそうだよね。あー、今このワールドカップっていう、この瞬間瞬間をみんな生きてるんだ、みたいな。虚の中にみんな没入するけど、後の祭りじゃないけど、祭りは翌日になったら終わるし、サッカーは90分経ったら終わるし。
  6. 近内:これが難しくてさ、うん。醒めた状態だと、祭りに参加できないんだよね。
  7. 澤田:あー、そうそうそうそう。
  8. 近内:だからまさに、夢から醒めた状況で夢を見ることはできないわけだよね。
  9. 澤田:そうなんですよ。僕が本業でスポーツを作るときにも、そこはすごく意識していて。僕らゆるスポーツっていうのを作ってるんですけれども、ルールブックはゆるくないんですよ。各競技、下手したら何十ページもあるの。
  10. 近内:うん。
  11. 澤田:要は超厳密。こうなったらアウト、こうなったらファール、こうなったら何とか、って全部厳密にしていて。一つでも何かファジーな要素が入ってきちゃうと、試合中に「今のどっち?」って、みんなが「あれあれ?」って我に返っちゃうのね。
  12. 近内:そうそうそうそう。中断しちゃうんだよね、まさにゲームが。
  13. 澤田:そうそうそう。だから、いかに二つ目の世界っていうものを完成度高く作るか。それこそ第1回でゆうりんが言ってた、ある種の酔いの設計なんだけどね。要は、みんながシラフにならない状態を持続するために、徹底的に第2の世界をルールでもって作り上げる。
  14. 近内:うん。
  15. 澤田:ルールとツールとロールとゴール、って僕は呼んでるんだけど。新しい虚を作るためには、ルールが必要で、ロール、新しい役割が必要で、ツール、何かものが必要で、ゴールが必要で。ゴールっていうのは、実は遊びを遊ぶみたいなことも含めてなんだけど。その辺を実はめちゃくちゃ設計しないと、みんなすぐに我に返っちゃうっていうか。すぐ携帯見たくなっちゃう、今の人。
  16. 近内:ちょっとスマホ見たくなっちゃうっていうか。そうか、スマホ見てるとき、あれ我に返っちゃってるんだね。
  17. 澤田:会話に夢中だけど、通知が来て「おや」って見ちゃってる段階で、今この会話が盛り上がってる私たちから離脱しちゃって。不思議な話で、スマホでオンラインになるってことは、逆にここの会話からはオフラインになっちゃう、みたいな。
  18. 近内:そうそう。ゲームの外へ行っちゃうんだよね、一回ね。
  19. 澤田:だから、虚の世界っていうのは、カルトみたいなものがあるから恐ろしいし、世のなんとか商法みたいなものって、それこそブラックストーリーみたいなところに絡め取られてる危険性はある。一方で、スマホの出現によって、僕らは本当はもっと虚に浸りたいのに、すぐ我に返ってしまう。だから、虚の危険性は前提としつつも、虚に浸りきれない現代、みたいなのがあって。その辺はすごい気になる話題というか。

  1. 近内:なんかね、今ね、言いたいことが2つあって。
  2. 澤田:おお、いいですね。
  3. 近内:この「言いたいことが何個あって」を宣言するの、これね、澤田文法。
  4. 澤田:(笑)
  5. 近内:先に言っとくと、もう1個待って、ってみんなが後で聞いてくれるから。先に言っとこうと思って。まず1つは、だから俺、やっぱ澤田さんと仲良くなれたんだなっていうか、それは仲良くなるわ、と思ったのが。僕、ウィトゲンシュタインの「言語ゲーム」っていう概念がすごく重要だなと思ってて。ゆるく感じるんだけど、ルールブックはガチガチだよって。まさに言語ゲームをちゃんと作んないと遊べなくなる、みたいな。
  6. 澤田:そうそうそうそう。
  7. 近内:しかも、我々が普段やってる、俗世間の言語ゲーム。例えば、ちゃんと学校に行って、とかね。ちゃんと勉強して、ちゃんと就職して、とか、礼儀正しくして、とか。我々の通常の、デフォルトの言語ゲームが日常にはあるわけですよ。その世界では、これがレギュレーションとして、これはやって良いことです、これはやってはならないです、これはペナルティとしてこうなります、とかっていう様々なレギュレーションでガチガチになってる。そこに、一時的かもしれないけど、こんな別の言語ゲームもあるんだよっていうときに、どう作ったら、これまで参加できなかった人が、しかも健常者も障害者も同じ土俵でできる言語ゲームって何かなっていう。あ、多分、澤田さん、言語ゲームを作ってるんだよね、やっぱり。それを実際に作ってるっていう。
  8. 澤田:うん。
  9. 近内:僕はやっぱり、言語ゲームっていう概念がすごく大事で、そこからいつも考えるので。あ、そこで、そうか、と。基盤として、この日常は、現実という一つの言語ゲームじゃん、っていう。別のものも作れるし、別のところに行くこともできるじゃん。
  10. 澤田:うんうん。
  11. 近内:でも、戻ってくるのも大事なんだよ、その外があるのも大事なんだよ、っていうのも。そこがすごく僕と多分近いなーって、今話を聞いて、やっとつながったというか。
  12. 澤田:うんうんうん。
  13. 近内:言われてみれば、そりゃそうなんだよってなんだけど、今自分でやっと腑に落ちたというか。
  14. 澤田:うんうんうん。そうですね。僕は、スポーツ以外でも作ってるんですけど、メンバーにも共有してるのが、「醒めることが約束されている、極上の夢を作りましょう」って話で。結局夢でしかないんだけれども、その夢を楽しむためには、まさに夢の中と書いて「夢中」。
  15. 近内:うん。
  16. 澤田:夢中状態を作らなくちゃいけなくて。そのためのトリガーはいっぱいあるんですよ。変な用具を使うとか、変な名前とか、変なルールとか、何かキャッチーな何々とか。いろいろあるんだけれども、結局、醒めることが約束されているっていうのが一つ重要なのと。
  17. 近内:うん。
  18. 澤田:あとは、なんで世間というか社会っていう「言語ゲーム1」があるのに、あえてそういうことをやってるかっていうと、やっぱり言語ゲーム1だけだと、なかなかマッチしない人がいっぱいいるっていうか。それがまさに、例えば障害者とか、マイノリティって言われてる人は特にそうなんですけれども、マジョリティが作ったルール、言語ゲームって言ってもいいかもしれないけど、そこに適応しようとアジャストするんだけど、限界があって。
  19. 近内:うん。
  20. 澤田:で、それは実は、アジャストできてる人も同じで。一つのルールにアジャストし続けるって、めちゃめちゃ疲弊するから。だから全然モードを変えた、別の言語ゲームとかルールとかが用意されてないと、そもそも息が吸えないのが我々人類だと思っていて。だからこそ、例えば文化とか宗教っていうのが生まれている。言語ゲーム2、3っていうのがない限り、僕らは生きることに疲弊してしまうから、むしろ生存戦略として残してるっていうか。それを結構戦略的に、仕事でやってるかもしれないですね、僕は。

  1. 近内:今の話で、例えばね、障害者の話ってなると、割と、自分は別に当事者じゃないし、健常者側だから、そこの話ってピンとこないっていうか、逆に自分たちが支援してあげる側だよな、とか思っちゃうと思うんだけど。発達特性のある人たちのキーワードで、「カモフラージュ」っていう表現があって。
  2. 澤田:ありますね、カモフラージュ。
  3. 近内:擬態してる。例えば車椅子とかだったらさ、歩くということは擬態できないけど、ちょっとコミュニケーションに難を抱えてる、みたいなのだと、なんとかボロが出ないように、できる限り定型発達のふりをする。でも、ふりをするまでいくと、多くの人が何かに当てはまる気がするんだよ。ちゃんと社会人としてやれてるふりをする、みたいな。本当はここでこういうことをやりたいんだけど、それやっちゃいけないよなって我慢するのも含めて。
  4. 澤田:うん。
  5. 近内:だからね、僕らはやっぱり、あるべき姿にカモフラージュしていて。そういう観点を入れると、さっき言った、別の言語ゲームを作るとか、別のゆるスポーツを作るってことと、僕らの社会の中にもう一個、まさに息継ぎができる場所を作る、みたいな意味で言うと、障害のある人だけの話でもないし。すごくシームレスに、スペクトラムとして、全員がある意味、何かしらの生きづらさを抱えてる。もちろん、障害者の人たちの固有の切実さはあるから、そこを尊重しなきゃいけないんだけども、生きづらさって観点で言ったら、みんなあるじゃん。それをカモフラージュして平気なふりして生きてるじゃん、っていう。だから夢は必要なんだよ、って言いたいんだよな、僕は。
  6. 澤田:いや、その通り。まさに、自閉スペクトラム症の――みんなじゃないけど、特に女の子ね、ちっちゃい女の子とかがそうなんだけど、カモフラージュしちゃうんだよね。
  7. 近内:逆に、過剰適応しちゃうんだ、多分。
  8. 澤田:そう。世界的な統計を見ても、18歳までの自閉スペクトラム症って男子の方が圧倒的に多いんだけど、ここ数年の研究だと、女子はカモフラージュしてるだけじゃん、ってなっていて。
  9. 近内:分からないっていうか。
  10. 澤田:周りが、検査を受けてみようとかっていうふうに、多分本人も思わないし、周りも気づかない。
  11. 近内:気づかない。生きづらさというか、すごく疲弊するよね。世の中のゲームに、ルールに合わせなきゃいけないから。
  12. 澤田:そう。それで意外とね、カモフラージュできてる女の子も、「メルトダウン」って言って――
  13. 近内:あ、途中でダメになっちゃう。
  14. 澤田:そう。もう、何もセルフコントロールが効かないぐらい、感情が爆発する、みたいになっちゃうのね、結構。でも、まさにそれは今ゆうりんが言ってくれた、スペクトラムだから。大なり小なり、みんなカモフラージュをしていて。それって僕はね、みんな生きながらにして、息を止めてる状態だと思っていて。カモフラージュしてる、特に自閉スペクトラム症の女の子なんて、学校にいるときっていうのは、心的には息を止めてる状態なのよ、本当に。
  15. 近内:そうかもね。ずっと水の中に潜り続けてる、みたいな。
  16. 澤田:でも、大なり小なり、みんなやっぱり息を止めてると思うんだよね。本当は自分はこう呼吸がしたいのに、みたいな。

  1. 澤田:で、僕のMac、誤変換を結構起こすんだけど。辞書登録して覚えさせたわけじゃないのに、「いきる」っていう字を漢字変換すると、なぜか自動で「息流」って出る。
  2. 近内:うん。息の――
  3. 澤田:で、「る」は流れる。
  4. 近内:「る」は流れる。
  5. 澤田:そうそう。
  6. 近内:すごく素敵な。それ、今完全に、書道の名人がパッて書いたぐらいの、本当に流れるような。
  7. 澤田:それが、今言ったカモフラージュっていうのを息を止める状態だとすると、それこそ生き生きと生きるっていうのは、息が流れてる状態。
  8. 近内:うん。うおーって。
  9. 澤田:で、それが現実世界でできれば最高なんだけど、それが難しいからこそ、息を止めるんじゃなくて、息が自然と流れていっていいんだよ、みたいな、第2、第3の言語ゲームが必要って話だと思っていて。
  10. 近内:うん。どう考えても息が詰まるから、息を流していくっていうか。でね、それって日常じゃなくて、ちょっとした息継ぎじゃん。だけど、息が生きる場所が一個あるって実感できたら、じゃあ二つ、三つ、四つ、五つ、もっといっぱい、この世界にはあり得るはずだと思えると、希望になるんだよね。楽になる。
  11. 澤田:そうだね、その通り、その通り。一個あるってだけで。だから、コロナ禍で不要不急と言われたカルチャー系、音楽も含めて、コンサートを中止しましたとかなったときに、僕らがやっぱり息がちょっと苦しくなったっていうのは、不要不急どころの騒ぎじゃなくて、むしろ生きるために、息を流すために、最重要なものだったんだってことに、みんな気づいていくっていうか。だから本当に、第2、第3の言語ゲームっていうのは、むしろ本当に生きるために必須?
  12. 近内:へぇ。
  13. 澤田:と僕は思っているんだけど。どう? ここまで20分発散したんですが。

  1. 近内:今日は逆に、我々面白くてさ。自分たちの言った言葉に、良い意味で酔ってたんだろうけど、今日さ――
  2. 澤田:そうそう、そうそう。
  3. 近内:今日、トピックめっちゃ分かりやすい話を、結構コンパクトに話せたり。
  4. 澤田:うん。
  5. 近内:すごく、イシューが一個の――夢とうつつとか、夢から覚めることとか。だから、冒頭で俺が言ったことに、多分2人で「これ今日のイシューだ」って予感したんだと思って。夢から覚めることっていう、それがもうすごくいいキーワードだったんだな。ちなみに俺、今日はだいぶ編集モードだから。さっき「言いたいことが2つある」って、1つしかまだ言ってなかった。
  6. 澤田:あ、そうだ。
  7. 近内:1つ目は、澤田さんと仲良くなる理由が、ゲームっていうキーワードと、澤田さんのゆるスポーツっていう作るところにつながってたんだ、ってこと。もう一個は、「酔う」っていう言葉が2つあるんだってことが分かった。
  8. 澤田:ほう。
  9. 近内:お酒に酔うとか、酔いしれるっていう方。車酔いの方の酔いじゃなくて。夢を見るみたいな、酔いしれるの方って、酔ってるときに酔ってるって自覚がない。これが「酔いA」なんですよ。
  10. 澤田:はい、はい。
  11. 近内:車酔いとか、目が回っちゃったっていう「酔いB」は、酔ってるときに明確に自覚と不快感がある。
  12. 澤田:はい、はい、はい。
  13. 近内:車でバックミラーを見てると酔う、っていうときの車酔いの方は酔いBで、酔ってるとすぐ分かる。
  14. 澤田:うん、うん。
  15. 近内:で、夢ってものと関係があるのは、酔いAの方だと思うんだよね。
  16. 澤田:はい、はい。
  17. 近内:身体と認識の間のズレがあることによって誘発される酔いは、酔いBの方なんだよね。
  18. 澤田:はい、はい。
  19. 近内:なんでこれが混ざるんだろうね、「酔う」っていう。まあ多分、大元がつながってて、途中から我々が違う意味で2つ「酔う」っていうので使い始めたのかもしれないんだけど。
  20. 澤田:そうだね。酔うって、やっぱり麻痺ってことだから、それは確かにいろんな意味で酔いが分岐していくんだけど。ちなみに酔いで言うと――
  21. 近内:なんかさ、今日、変じゃん。後半に転がる。前半きれいで、後半に転がる。
  22. 澤田:いやいや、いいよ。第1回と逆になるんだけど。

  1. 澤田:僕が結構意識してるのは、それこそ「ほろ酔い」状態なのね。つまり、新しいことを起こしていこうみたいなときって、めちゃめちゃ無謀なことをやろうとすることが僕は多いから、シラフだと、シラフの自分が止めちゃうのよ。
  2. 近内:うん。
  3. 澤田:だけど、ベロベロに酩酊してる状態だと、めちゃめちゃ事故るっていうか。それこそ、その活動によって誰かを傷つけるかもしれないし、とか、いろんなリーガルチェックとかが後回しになっちゃってる、みたいな。だから、「戦略的ほろ酔い」っていうのを僕は実は作っていて。ちょっと麻痺するっていうか、これまでの常識的な澤田っていうのを、一旦酔ってるっていうことで麻痺させて、鼻で笑われるかもしんないけどやっちゃおう、みたいな。だけど、どこかにシラフの自分もいて。うん、やっちゃえやっちゃえ、だけど、こことここに地雷があるかもしんないから、そこだけは気をつけな、みたいな。だから、酔いで言うと、僕なら結構「ほろ酔い」みたいなキーワード。
  4. 近内:うんうんうん。
  5. 澤田:で、そういう意味で言うと、過去が固定してしまいそうになる、それが過去なの、歴史なの、みたいなのっていうのは、そもそもシラフとしての自分じゃないけど、軸足としての自分も心もとない上に、自分が意図してない方向に酔わされてしまうかも、みたいな嫌悪感を感じるというか。オーナーシップが自分にない酔いというか。「私の酔い」っていうよりは、「私たちの酔い」とか「あなたの酔い」っていう状態になっちゃうから、それがゆうりんには嫌なんじゃないかなとか。僕は、私が自分で引き起こす酔いは大好きなのね。ほろ酔いっていう状態。

  1. 近内:なんかね、ごめん、ちょっといっぱい言いたいことあるんだけど、忘れないうちに。やっぱり尊厳、個人の尊厳っていう意味で言うと、内田樹さんと対談した本の中で――最初の原稿はそうなってたんだけど、当時聞いたときも素敵な表現だなと思って。要は、本当の武道とか、まあ合気道とかでもなんでもいいんだけど、すごくカリスマ的なお師匠さんっていうものと、カルトの指導者っていうものは、正直グラデーションなんだと。
  2. 澤田:うん。
  3. 近内:要は、この人が自分を導いてくれる、みたいな弟子の側からすると、正直区別がつかないことは往々にしてある。ただ、ちゃんとした先生、ちゃんとした師匠というものは、弟子の尊厳――内田樹さんは「ディグニティ」って言い方をしたんだよね――その人のディグニティには絶対踏み込まない、っていう。
  4. 澤田:なるほどね。
  5. 近内:そこがカルトかカルトじゃないかを分けるところだ、と。まさに、個人の尊厳っていうものを操作しようとしない。
  6. 澤田:なるほどね。
  7. 近内:そこの最後の手綱は絶対握らないっていうか。コントロールしようとする意識があるかないか、みたいな。
  8. 澤田:そうだよね。個人の尊厳、ディグニティ。それはすごく分かるな。だから、ゆうりんの新しい本を読んで、また贈与について考えたときに――これは前に酔っ払って話したかもしれないけど――プロデューサーが不在であることって重要じゃないかなって思っていて。
  9. 近内:うん。
  10. 澤田:祭りって当然、町内の何とかさんみたいな仕切る人とか、地主さんとか神社の人とかはいると思うんだけど。だけど、脈々と受け継いできてるこの歴史全体のプロデューサーっていうのはいなくて。空海とかは、もしかしたらそうなのかもしれないけど。
  11. 近内:そうそう、プロデューサー気質だよね。
  12. 澤田:気質だけれども、別に空海っていうプロデューサーに従って、お遍路のみんなが参加してるわけじゃないっていうか。
  13. 近内:そうそう、もっと上のものっていうか。
  14. 澤田:そうそうそうそう。自分の尊厳が何者かによって傷つけられてないし、私にアンテナがついていて、誰かがそのコントローラーを持って操作してる、みたいな状況じゃないっていうか。だから、贈与も、ディグニティ、尊厳もそうなんだけれども、そのコントローラーを持ってる人がいないって、すごい重要だと思っていて。
  15. 近内:それがすごく大事で。これが贈与論でなかなか伝わんないんだけど、僕は、エゴをいかに抜くかっていうことが大事で。
  16. 澤田:贈与する側だったとしたら――
  17. 近内:そうだよ。
  18. 澤田:エゴが介在する余地がないんじゃない、なんか。
  19. 近内:そう。だって、体が勝手にやっちゃったんだよ、とか。
  20. 澤田:そうだよね。
  21. 近内:流れてきたものがあったから、あなたに流しただけであって、流したかったわけじゃないんだよ、みたいな。
  22. 澤田:そうそうそう。
  23. 近内:思いがけず、思わずやっちゃった、みたいな。ある意味、そのオーナーシップというか、贈与のオーソリティか。
  24. 澤田:うん。
  25. 近内:権威者がいない、っていう。
  26. 澤田:そうそうそう。
  27. 近内:やっぱね、贈与する側も、権威者に従って自分が権威者になろうとかっていうのがなければ、相手のディグニティ、尊厳を多分維持したまま、何かを手渡すことができる。相手のディグニティを尊重したまま何かを手渡すって、めっちゃ、俺ね、人間としての成熟だと思うんですよ。
  28. 澤田:それはすごく深くなってきたね。
  29. 近内:うん。そう。贈与ってそんな難しいの、って多分言う人いるんだけど、結構難しい。
  30. 澤田:うん。いや、むずいよね。

  1. 澤田:僕自身の経験で言うと、コピーライターなんですけど、ペーペーだった時に、やっぱりついてた師匠から学ぶことがいっぱいあって。で、去年、10年ぶりぐらいにLINEして、「あの時のあのご発言が、いまだに僕の中で本当に中心にあるんです」って言ったら、「そんなこと言ったっけ」みたいな。
  2. 近内:え、あるよね。
  3. 澤田:そうそう。
  4. 近内:それ、贈与だよね。
  5. 澤田:そうだよね。だから、後からしか分かんないなーって思ったっていうか、贈与は。まあ、全パターン、全贈与パターンに当てはまるか分かんないんだけれども。
  6. 近内:うん。
  7. 澤田:で、僕自身も実は結構、急に知らない人からDMが来て、「10年前の澤田さんの記事を見て、今こんなことを始めました、感謝申し上げます」みたいなのが来るのよ。「言ったっけ」みたいな。まあ結局、贈与としてしまった自覚すらないっていうか。
  8. 近内:うん。
  9. 澤田:身に覚えがない。
  10. 近内:身に覚えがないんだけど、っていう。
  11. 澤田:で、それが結果、僕が師匠に対して「贈与を受けた」って思っちゃったのは、師匠の行為がやっぱり余ってる。
  12. 近内:余ってしまった。
  13. 澤田:そうそう。
  14. 近内:これ、澤田さんも言ってたのが、余ってしまうっていうのが大事だっていうキーワードを、この前も。
  15. 澤田:結果的に余ってしまった、っていう。
  16. 近内:結果的にね。
  17. 澤田:うん。初めからそれが企画書に書いてあったわけじゃないっていうか。今日俺は後輩に対して余らせよう、いいことを言って20年後に感謝されよう、っていう戦略性がないっていうか。
  18. 近内:そうだから、「残す」っていう言葉よりも「余る」って、やっぱいいよね。だって余っちゃうんだよね。残すっていうのはさ、意図的に取っておこうってなるけど、余るっていうのは、別に余らせるつもりはなかったんだけど、ちょっと多くなっちゃった、みたいな。
  19. 澤田:そうそう。
  20. 近内:余らせるつもりのないものじゃないと、「余る」って言い方しないんだよね。
  21. 澤田:そうなんだよね。
  22. 近内:そうなんだよ。まあ、僕だから「過剰なもの」って言い方もよくしちゃうんだけど。余ってるんだよと。エネルギーが多分余っちゃってんだよ、って。自分一人分のエネルギーじゃ、あれ? なんか多いな、みたいな。
  23. 澤田:そうそうそうそう。この「余りの哲学」は、本当にまさにゆうりんの本を読んで、僕の中に立ち上がってきた問いというか。おもろー、みたいな。

  1. 近内:ほら、澤田さん、コンセプトの本あったじゃん。
  2. 澤田:はいはい。
  3. 近内:『人生にコンセプトを』だっけ、正式な言い方。あれにさ、だから割り切れないっていうのは――余りがあるってことは、割り切れないってことだって。この余りがあるってことは、割り切れないっていう言葉にもつながってさ。
  4. 澤田:まさに、数学的なメタファーで言うと。
  5. 近内:そうそうそう。割り切れないからこそ余りが出てくるとか。割り切れなさってものと――つまり今っぽく言えば、多分ネガティブ・ケイパビリティだよね。その割り切れないものを、きっちり箱に詰めろって言われても入らないでさ、余っちゃいます、っていうさ。そこから何か、まあね、それっぽい言葉で言うと、クリエイティビティみたいなものとか、その人の生きてる痕跡みたいなものが――
  6. 澤田:うん。
  7. 近内:余りにある気がするんだよね、なんか。
  8. 澤田:そうなのよ。余りっておもろいなって思ってて。これ前に飲んだときに言ったかもしれないけど、ある子どもが泣いてるときに、大人があやそうとすると――
  9. 近内:うん。
  10. 澤田:慰めるのに、声をかけるのか抱きしめるのか分かんないけれども。もしかしたら、80の力で子どもは泣き止むかもしれないけれども、数値化されてないから、そのスコアっていうのが必ず余ってしまう。結果が出たときには余ってるっていうか。過剰に私は声をかけてるかもしれないし、過剰にハグをしてるかもしれないっていうか。
  11. 近内:うん。
  12. 澤田:つまり、何か世界に対して、例えば傷を癒やそうでも何でもいいんだけれども、私たちが働きかけるときっていうのは、そこに定規とかが表示されてるわけじゃないから、そもそも余ってしまうよね、っていうのが前提にあったりするし。あと、余るのってやっぱり僕は快楽だなとも思っていて。これがどういう脳内物質が出るのかっていうのは、僕は全然分かんないんだけど。例えば、さっきのスポーツを作るにしても、スポーツとしてはここまでで成立してるんだけど――
  13. 近内:うん。
  14. 澤田:余計なちょっとした遊びを、どんどん加えちゃうのね、僕は。で、それが入れば入るほど、結構参加者もそこに食いついたりするのよ。
  15. 近内:うんうん。
  16. 澤田:僕、忍者のロボットを作ってるんですけど。肩に乗せるやつで、お尻がプリっとしてるんですよ。で、意味はないのよ。意味はちょっとあるんだけど、中に入る基板とかの形で。
  17. 近内:そうなんだ。
  18. 澤田:だけど、にしても、こんなにふくよかにしなくていいよね。
  19. 近内:うんうん。ちょっとした出っ張りでもいいもんね。
  20. 澤田:わざわざお尻の形じゃなくてもいいっていう。
  21. 近内:そうそうそう。
  22. 澤田:でも、あえてそこを、ふくよかなお尻っていうふうに余らせてんのよ。
  23. 近内:うんうん。
  24. 澤田:役に立たないよ、あのぷっくらしたお尻、みたいな。だけど、そこに子どもたちとかみんな、「何このお尻」ってペタペタ、まずお尻を触る、みたいな。

  1. 近内:いや、結局、今後半さ、この話って何の話をしてるかって、愛の話をしてると思うんだよ。
  2. 澤田:きた。
  3. 近内:だって、余ってるところに愛を感じるじゃん、やっぱり。
  4. 澤田:うんうんうん。
  5. 近内:要はさ、子どもからしたら、もう慰め終わってくれたから、パパママ、もう普通に家事とか仕事してくれ、っていうのに、まだずっと手を握って一緒にいてくれてるとかさ。もう泣き止んでるのに、ずっとハグしてくれてる、ってなると。泣き止んでるにもかかわらずしてくれてるっていう、この余りの部分に、僕らは愛を感じるんじゃない、多分。
  6. 澤田:それもあるし――
  7. 近内:受け取りって。
  8. 澤田:あ、それはね、コミュニケーションっていう意味ではもちろんあるし。他方で、さっき快楽って言ったのは、余ってしまう気持ちよさがあるというか。
  9. 近内:なるほどね。伝える側というか、手渡す側に対しても、ってこと?
  10. 澤田:うーんと、例えば何でもいいんだけど、コピーを取るっていう行為一つ取っても、性格が出るじゃない。
  11. 近内:うん。
  12. 澤田:で、僕だったら、ホチキスを2回パチパチ留めるのが楽しいなっていうか、僕っぽくていいなって思って、新人のときにやってたんですよね。
  13. 近内:うん。
  14. 澤田:で、それって余りじゃないですか。ホチキス2回打たなくていいのに、余計なことをするっていう。
  15. 近内:そうそうそうそうそう。
  16. 澤田:だけど、そこに僕らしさが見出されるっていうか。単調で、顔がすげ替え可能な、システマチックな仕事の中において、ちょっと自分にしかできない、自分ならではの痕跡を残す快楽っていうか。
  17. 近内:うん。僕ね、それで言うと、「シグネチャー」って言葉が好きで。
  18. 澤田:おー。
  19. 近内:その人固有の痕跡というか、名残とか。
  20. 澤田:はいはいはいはい。
  21. 近内:ほら、シグネチャーって、よくギターとかだとさ、例えばエリック・クラプトンのシグネチャーモデルとかあるじゃん。
  22. 澤田:アーティスト。
  23. 近内:アーティストが使ってるのと同じ型のギターですよ、って。誰々のシグネチャー。もともと署名って意味だけど、つまりその人の固有性みたいな。そのホチキスの留め方に、多分澤田さんのシグネチャーを感じる人は感じる、みたいな。
  24. 澤田:うんうんうんうんうん。自分でもちょっと、あ、俺が留めたホチキスだ、みたいな。
  25. 近内:ちょっと、満足みたいな。
  26. 澤田:ちょっと面白いな、みたいな。嬉しいな、みたいな。
  27. 近内:プラスアルファの余りの部分に。
  28. 澤田:やっぱその、そうそうそう。
  29. 近内:やっぱ余ってる何かというか、合理性を超えたものって、やっぱ余りという。つまり、割り切れるってことはね、きっちり箱に詰められるって意味で、合理的だから。
  30. 澤田:そう。なんかね、夢を見ることと醒めることが大事、みたいなものも、やっぱその余る――つまり、現実を生きていくだけじゃなくて、やっぱ余りの部分、夢。
  31. 近内:そうなんだよね。でも、余りは余りでしかなくて、それを本編にしたら違っちゃう。
  32. 澤田:そうそうそうそう。
  33. 近内:余りにならないっていう。余らせるためにやりましょう、って言った瞬間に、あ、それ余りじゃないじゃん、っていうね。
  34. 澤田:そうそうそうそう。だから、アートで言うと、バロックってなんだっけ、歪んだ真珠だっけ。
  35. 近内:うん。
  36. 澤田:それが、精緻に遠近法とかにのっとって、リアリティを写実的に描くみたいなことじゃなくて、固有の歪みっていうのをもっと認めていこうよ、っていうのがバロックだと思っていて。でも、戦略的に歪んでいこう、だと全然贈与的じゃなくて。もともと歪んでたのが、今の規格の中で整えられてるんだとしたら、整えなくていいよ、っていうぐらいの。ナチュラル・バロック。デザインされたバロックじゃなくて。なんか、そういう生き方がすごく増えていくといいよね、っていう。

  1. 近内:あれだね。
  2. 澤田:この番組は結構、どうすか?
  3. 近内:これさ、全然公開できるくらい――
  4. 澤田:公開した方がいい。
  5. 近内:悪いけど、いいコンテンツだね。
  6. 澤田:なかなか面白いですね。永遠に話せるな。
  7. 近内:そうだね。
  8. 澤田:第2回はこんな感じにしつつ。しかもあれですね、今、第1回、第2回って続けて録ってるんですけど、第1回が始まる前に、第1回目でこの番組名から決めようって言ってたのに、全く決まらなかった。第3回目以降にまた番組名が決まるのかわかんないけど。
  9. 近内:(笑)
  10. 澤田:やりましょう、これ。楽しいわ。
  11. 近内:最後にメタ的なことを言うと、いろんな言いたいことがあるな。あともう一個あったんだよ。ちゃんと思い出せる。最後にぶち込んどいてもいい?
  12. 澤田:もちろんもちろん。
  13. 近内:なんかね、澤田さんがさっき、どこで言ったんだっけな。澤田さんが「ゆるめる」って言葉で言ってるのはそこですよね、っていう応答を持ったタイミングがあったんだよな。どこでだっけな。多分、後で自分で聞き直せば、ここだって思い出せると思うんだけど。「ゆるめる」っていう表現がね、腑に落ちたんですよ、さっき話を聞きながら。
  14. 澤田:どこだろう。
  15. 近内:「間が大事」みたいなときだったかな。割と途中だったんだけど。なんかね、今日、僕は「ゆるめる」っていう言葉を、別の表現で今日言ってて、それが「ゆるめる」ってことだっていうふうに……なんていうときだったっけな。思い出せないな。
  16. 澤田:そして当然のごとく、自覚もないから。
  17. 近内:聞き直しても、俺も思い出せない。
  18. 澤田:それじゃあ、また次に教えてください。おもろい。ぜひ、番組名は決まってないけど、第3回以降もやっていきましょう。
  19. 近内:はい、決めていきます。
  20. 澤田:はい。じゃあ今回も、ありがとうございました。
  21. 近内:ありがとうございました。

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