B1 MAGAZINE

PODCAST#ことばのBPM2026.10.05

#1-1 ことばのBPM、スタート!

約40分

「ことばのBPM」のジャケット。水色の背景に黄色の番組ロゴ、マイクを前に向かい合って笑顔で話す2人のイラスト

澤田智洋(コピーライター)と近内悠太(哲学研究者)による、テンポ感や直感を大事にする番組です。共感より換気。結論より躓き。贈与、あまり、遊び、身体などをめぐって、自在に、気ままに言葉を交わしていきます。

澤田智洋(コピーライター)
近内悠太(哲学研究者)

※音声の自動文字起こしをもとに、読みやすく編集しています。

  1. 澤田:はい、皆さん、はじめましての方もそうでない方も、よろしくお願いします。私、一応コピーライターをやってます、澤田智洋と言います。そして?
  2. 近内:はい、一応哲学研究者をやってる、近内悠太です。
  3. 澤田:コピーライターって、職業としてのコピーライターがあって、どこかに配属されたとかで「一応」がつくっぽいけど、哲学研究者って自発的にやってる気がするから、「一応」ってつくのかなって。むしろ「一応」がないっていうか。
  4. 近内:それで言うと、大学所属とかさ、どこかの研究機関とか組織に属してるってなると……
  5. 澤田:そうかそうか。
  6. 近内:「一応」がない気がしていて。
  7. 澤田:なるほど。じゃあ、あながち間違ってないんだ。
  8. 近内:(笑)よろしくお願いします。
  9. 澤田:よろしくお願いします。ゆうりん、近内さん……ゆうりんって呼んでいいですか?
  10. 近内:どうぞ。
  11. 澤田:ゆうりんとの出会いはコロナ禍ですよね。2021年に私が『マイノリティデザイン』という本を出したんですけれども、いわゆるよくある出版直後の行脚みたいな感じで、気脈が通じそうというか、合いそうな方とトークイベントをやらせていただいて。そのうちの一人がゆうりんだったというか。
  12. 近内:はじめまして、でしたね。
  13. 澤田:出版社の方からつないでいただいて、はじめましてでオンラインで話して。でもリアルではずっとお会いしてなくて、リアルで初めてお会いできたのが今年、2026年の6月。
  14. 近内:6月か、あれは。
  15. 澤田:だから2021年にオンラインで出会ってたけど、5年間ほぼ連絡も取らずですよね。
  16. 近内:澤田さんの本を読んだりはあったけど。
  17. 澤田:そうですね、僕もゆうりんの本は読んでたけど、特に連絡はせず。でもいろんなご縁で今年の6月に会うことができて、その後7月に飲みに行って、8月に2回飲みに行って。今収録してるのが9月なんで、最近よく会ってますね。怖いね、ご縁が。やっとクロスしてきたというか。
  18. 近内:うん。
  19. 澤田:そこはすごい不思議ですよね。だって5年前に出会ってて、今急にクロスするみたいな。何なんですかね。
  20. 近内:いや、でもさっき、いい言葉だなと思って。「気脈が通じる」っていう言い方をね、さっき澤田さんがなさってて。気脈っていい表現だなと。僕のボキャブラリーになかったから、そういう単語があるんだって初めて知って。
  21. 澤田:へえ。
  22. 近内:で、僕はちょっと重いかもしれないんだけど、気脈って一回つながったら切れないと思ってるんですよ。気脈が太くなって完全に合流することもあるし、また離れることはあるかもしれないけど。それで言うと、2021年、しかもオンラインでね、実質初めて喋ったのがそこだったけど、まさに気脈の通じる関係性だなと思っていたから。いつかまたどこかで交わるはずだっていう……安心感でもないけど、なんだろうな、いつかまたつながるだろうなと思ってた、って感じですね。
  23. 澤田:僕もそんな感じでした。

  1. 澤田:7月にゆうりんと飲んだときも、酔っ払いながら言った気がするんだけど、初めてのオンラインイベントのときに、もうお一方いらっしゃって。その方の活動のキーワードが「共感」だったんですよね。で、共感ってちょっと危ういワードだなって僕は気になっていたんだけど、それをゆうりんがズバッと言っていて。
  2. 近内:ああ。
  3. 澤田:いい意味での、言葉への潔癖症的な側面を、初めてのトークイベントで垣間見て。僕も結構、言葉に対して潔癖症なんですよ。この言葉使い嫌だなとか、この文脈でこの単語出すとちょっと違うんじゃないかとか。その時点で、すごい好きかもって思ってました。本当に今でも覚えてるから。
  4. 近内:確かにね。お相手の「共感」っていうキーワードを、「僕、嫌なんですよね」って多分言った気がするかも。
  5. 澤田:もうドストレートに。
  6. 近内:(笑)
  7. 澤田:いや、それがいいなと。共感って、例えば僕は広告の仕事をしてるんですけれども、毎回の打ち合わせに、極論出てくるぐらいすごく大事なワードで。じゃあこの広告映像を作りましょうってなったときに、どういうポイントで見てる人に共感していただきましょうか、みたいな。要はそれって接点じゃないですか。
  8. 近内:うんうん。
  9. 澤田:共感っていうのは「わかるわかる」っていう感情を引き起こすことだけど、その結果何が起こってるかっていうと、ノスタルジー漁りみたいな感じで。例えば最近のCMって、めちゃめちゃ懐メロのリアレンジが多いじゃないですか。90年代とか2000年代の。
  10. 近内:多いですね。
  11. 澤田:あれがまさに、一つの行き過ぎた共感の象徴なんですよね。会議で、商品は新しい、機能も新しい。でもこれだと新規性の要素が強すぎるから、何か共感性も追加しなくちゃね、じゃあ90年代のあの曲をリアレンジしようか、みたいになっちゃう。でも「わかるわかる」っていう範囲の中で、わかるっていうのは結構危険な行為というか、結構閉鎖的だなっていうのがすごく気になっていて。なので、ゆうりんが「共感、僕嫌だ」みたいなことを言ってて、同じ感覚だぞって思ったっていうか。

  1. 近内:なるほどね。僕、なんていうのかな、流れが淀んでる場所が苦手というか、嫌だなと思っていて。今言ったノスタルジーって、川につながっていない沼というか、湖というか。そこに戻ってくれば安心。なんでかっていうと、流れがないから。
  2. 澤田:うん。
  3. 近内:でもやっぱりそれって、どこにも水が流れていないから、どんどん煮詰まっていくっていうかね。どろどろしていってしまう気がしていて。流れを取り戻すとか、違う比喩で言うなら窓を開けるとか。扉を開けるって結構勇気がいるじゃないですか。でも窓を開けるぐらいなら、換気をするっていうね、空気を入れ替えるぐらいのつもりで。
  4. 澤田:ああ、窓か。
  5. 近内:そういう意味で言うと、「共感って僕嫌な言葉なんです」みたいなことを言うと、窓がパカッと開くかなって。3人とも同じようなこと考えてますよね、うふふ、みたいになるのってもったいないなと思ったから。あと、僕がズバッと言うときって、相手へのリスペクトがあるから。悪口じゃなくて、このボールを受け取ってくださいっていうふうに投げる、っていう意味で。多分そのとき、「共感ってちょっと苦手な言葉で、嫌だなと思うんです」って、いきなり言ったのかもしれないですね。

  1. 澤田:「それ全然わかんないんだけど」から始まるコミュニケーションが、僕も大好物で。それってものすごく燃えるし、ストレスもかかるし、脳の負荷もでかいんだけれども、そこからしか開かない引き出しっていうのが往々にしてあって。
  2. 近内:うんうん。
  3. 澤田:僕の場合で言うと、いろんな障害特性を持った方と日々お会いしていて。障害者って漢字3つで、記号としてくくられちゃうけれども、当たり前だけれどもめちゃくちゃ多様で。相対的には、いわゆる健常者って言われてる人よりもいろんな意味で多様だと僕は思っていて。例えば目が見えない人がいたら、その人が捉えてる感覚世界って、どう考えても見えてる人とは違ったりするし。見え方にはグラデーションがあって、全盲からロービジョンまで。だから視覚障害っていうカテゴリーの中にもいろんな見え方があって、その人の数だけ感覚世界がある。
  4. 近内:そうですよね。
  5. 澤田:で、やっぱり初めは全然わかり合えないことがあるというか。例えばこの間、ある視覚障害者の方と話してて、神経衰弱をやったことがないっていう話になったと。学校でも家でも通ってこなかったって。僕は別の文脈で、神経衰弱っていう共感から話題を広げようとしちゃっていたんだけれども、そこでつまずくんですよね。神経衰弱的な企画を考えていって回収しようとしたのが、通じないってなったときに、おっとっとっと、みたいな。
  6. 近内:(笑)
  7. 澤田:滑らかに歩いていたのに、心がつまずいたんですよね。でも、心がつまずいて立ち上がるまでに、じゃあどういう話しぶりとか、どういうメタファーとか、どういう物語で話せばこの企画が伝わるんだろうって、いろいろ悪戦苦闘したら、最終的に伝わったというか。だから、そういう心のつまずきみたいなのが、個人的な大好物なんですよ。
  8. 近内:ウィトゲンシュタインという哲学者がね、「哲学の問題は『途方に暮れている』という形を取る」みたいなことを言うんですよ。まさに、つまずいたらどうするかっていうと、一回うまく歩けなくなったら、途方に暮れるというか、行き先がわかんなくなっちゃう。
  9. 澤田:うん。
  10. 近内:やっぱりそこでこそチャンスというか。やっとつまずけたとか、ちょっと途方に暮れてきたっていうのは、僕はすごく面白いことだと思うんですよね。つまずきたくない、途方に暮れたくないってなったら、ノスタルジーへ帰っていく。そこには、まさにつまずきがないから。でもなんていうのかな、戻ってしまうと、うまく歩けなくなっちゃう気がするんですよね。一時的にちょっと休憩するために、一回ノスタルジーで休憩しますっていう、帰っていく場所というよりは……
  11. 澤田:なるほどね。
  12. 近内:トイレ休憩的な感じで、ちょっと一瞬ノスタルジー休憩しようよって言って、その休憩の後また立ち上がるんだったらいいけれども。

  1. 近内:なんだっけね、前に何かで、ノスタルジーって言葉の語源じゃないけど、意味を知って。全然ちゃんと覚えてないんだけど、「もう戻ることができない」っていうことが含まれてる、みたいな話じゃなかったっけな。もう戻れない、もう手に入らない、もう接続できないっていうのが、ノスタルジーの元の意味に含まれてるっていう。
  2. 澤田:へえ。
  3. 近内:だから、こんなイメージじゃないですか。お化け屋敷みたいなイメージで、本人は夢の中で、すごい楽しい建物だ、楽しい場所だ、仲間もいて、みたいに思ってるけど、夢から覚めた外から見ると、廃墟の中で一人で過ごしてるみたいな。なんていうのかな、他の人とつながれなくなってしまう気がして。ノスタルジーって排他的というか、世代的な排他性があるというか。
  4. 澤田:そうですよね。ノスタルジーって確か、18世紀ぐらいまでは病気として診断されたりしてたんですよね。
  5. 近内:そうなんだっけ。
  6. 澤田:確か、世界的に大航海時代とかが始まって、故郷を離れるヨーロッパ人が増えて、植民地とかで暮らすようになって。いわば支配階級として快適な生活を送っているはずが、どんどん元気がなくなっていく。やっぱり自分の原風景に立ち帰りたいとか、当然家族とかも残してきてるから。だからその当時は本当に病気として、いろんなものが処方されてたみたいな。
  7. 近内:へえ、病気だったんだ。

  1. 澤田:それがやがて、ノスタルジーって100%悪いっていうことだけじゃなくて、いい意味での休憩所としても見られるようになって。毎日が不確実だらけの世界において――これはVUCAって言われるよりはるか昔の話で、そもそも我々がVUCAじゃなかった時代なんてないって言う方もいるんだけど――ノスタルジーっていうのは、自分の安寧の場所を自分だけで設計できるシステムとして、ポジティブな側面もあるっていう評価をされて、病気じゃなくなった、みたいなことがあるんだけれども。
  2. 近内:うんうん。
  3. 澤田:だけど、ビジネスやクリエーションの中でノスタルジーが多すぎるのは、やっぱり依然気になっているっていうか。さっきゆうりんが言ってたけど、ノスタルジーって自分が構築しているシステムだから、それをどうハンドリングしていくかは自分に託されているわけだけれども、本当に安全なシェルターとして使いすぎてしまうと、いつまでたっても「あの頃は良かった」、あるいは「あの頃の自分は良かった」みたいな、懐古主義に陥ることもあるから。ノスタルジーとの適切な付き合い方って、すごく大事ですよね。
  4. 近内:あるに越したことはない、とは僕も思ってる前提なんですよね。

  1. 近内:高校時代の友人たちと、半年か1年ぐらい前かな、割と大人数で集まったんですよ。僕の高校って3年間クラス替えがなくて、しかも結構仲のいいクラスだったんですよ。だから集まると、「あのときこういうことやってたよな」とか、「あのとき俺たちずっとこういうことやってたよな」みたいな感じで、めっちゃ盛り上がるわけですよ。普段この話ってできないから。このメンバーが集まらないとしないから。
  2. 澤田:うんうん。
  3. 近内:だからすごく爆笑したし楽しかったんだけど、同時に不安になってくるというか、落ち着かなかったのは、15歳から18歳までのたった3年間のあの時間に、自分の意識が今、釘付けにされていくような感覚。アイデンティティを突きつけられるというか。楽しいんだけど、やっぱり僕としては落ち着かないな、と。
  4. 澤田:へえ。
  5. 近内:これは非日常の、まさにハレとケで言うとハレのコミュニケーションだなと思ったんですよね。日常的なコミュニケーションにはできないし、あんまりしちゃいけないのかなって感覚。すごく楽しいって感じると同時に、この3年間の記憶に釘付けにされてるコミュニケーションだな、同窓会って、と思ったのが、そのときの感覚だったかな。
  6. 澤田:それ面白いな。
  7. 近内:甘く美しいんだけども、やっぱり一つの幻想に絡め取られていくような感覚。
  8. 澤田:そうだよな。
  9. 近内:ある種の陶酔というか。そして過去は常に美化されるというか、フィルターがかかるから、華美に装飾して語られて共有されて。そんな大した笑い話じゃなかったのに、時代の経過とともに大爆笑できる話になってる、みたいなことも含めて。
  10. 澤田:でもそれって、両側面ありますよね。僕も結構同じで、大学の友人たちが超仲良くて、LINEとか毎日バンバンやり取りしてるんですよ。今こんなところでこういう飯食ってる、とか。で、みんな月1とかで会ってるんだけど、僕はその集まりに2年に1回しか行かなくて、LINEも2週間に1回ぐらいしか見ないんだけど。
  11. 近内:(笑)
  12. 澤田:そこにつながってる安心感と、それと結構同じ感覚で、過去という一点が拡張されるいびつさみたいな、バランスの悪さみたいなのにすごく気づいていて。過去が肥大化するというか。両方ありますよね。
  13. 近内:うん。
  14. 澤田:でも、このコミュニティが30年、40年続いていけば、どんどん人が亡くなっていって、生き残っている人たちは、ある種、生存者の会みたいになっていくから。そこのコミュニティの価値って、シニアになったら上がる気もしていて。そうなってくると、同窓会で共感して「あのときこうだったよな」「あったよな」が、「あいつはいないけど」っていう、どこかで弔いに変わるんだね。そいつのことを思い出すっていうのが起こり始めるとなったら、それはすごく人類学的に価値があるというか、重要な振る舞いな気がする。
  15. 近内:何が違うんでしょうね。みんな生きてて「あのとき本当にお前アホだったよな」っていうのと、誰か当事者が亡くなって、みんなで集まって「あいつってああいうやつだったよな」って語るのと。同じ内容を語ってるはずなのに、重みがちょっと変わってくるっていうか。
  16. 澤田:うん、変わりますね。
  17. 近内:30代後半とか40代のときって、自分が自分になっていくピークのときというか。失うものよりも得ていく、自分のカバンにいろんなものを詰め込んで登っていくフェーズ。だから「あのとき俺たちは」って言われても、いや俺もう違うんだよ、今のお前と俺の話がしたいのに、どうしても過去の話が重くなっちゃう。でも山を下り始めると、今度はむしろ失っていくものの方が多い。死ぬまで自分自身になり続けるんだとは思うんだけども、自分の中の固定された部分というか、更新されない自分の部分みたいな……
  18. 澤田:なるほど。
  19. 近内:ものを、お互い慈しみ合うようなフェーズに、もしかしたら同窓会というものも意味合いが変わるのかもしれないな、って今ふと思ったな。
  20. 澤田:失うものが意識的になってくると、仲間が集まったら「あいつさ、死んじゃったけど、こんなこと言ってたよな」っていうのを思い出す時間に変わる。
  21. 近内:懐かしい、っていうね。
  22. 澤田:なるほどね。

  1. 澤田:それ、もしかしたら「過去」と「歴史」の対比でいけるかなって今思って。例えばイチローが現役時代に言ってたのが、一応毎ヒット喜ぶらしいんですよ。あれだけのヒット製造機なのに。1シーズンに262本打ったときも、一本一本慈しむんだけど、塁に出た瞬間にはもう喜んでないって言っていて。
  2. 近内:へえ。
  3. 澤田:それっていうのは、「一本今打ったぞ」っていうのは所詮過去でしかなくて、現役時代に過去にとらわれすぎていると、過去に潰されるじゃないけど、あのときうまく打てたからもう一回再現しようとか、過度に考えすぎてしまうとフォームが崩れる。だから程よく過去を捨てていく現役時代、みたいなのが、特に野球選手は必要なんだけれども。現役を退いたり、その人が亡くなった瞬間に過去を振り返ったとて、今の自分に何かネガティブなフィードバックが起こることって、おそらくない。自分が次のフェーズに行ってる、プレイヤーじゃなくてプロデューサーになってるかもしれないから、今の自分への影響が少なくなってるっていうか。それはある意味では、過去が歴史になってる。
  4. 近内:同じ同窓会の話でも、みんな生きてて、自分はまだまだこれからバリバリ働くぞ、今が大事だから、あのときに浸ってる暇はないんだよ、みたいなときは、まだ過去が歴史になりきれていないというか。
  5. 澤田:そうそう。
  6. 近内:過去と歴史が混ざってる落ち着かなさ、みたいな。
  7. 澤田:はいはいはい。
  8. 近内:歴史性もちょっと混ざってるか。それが誇らしいものかもしれないし、自分の傷つきの過去かもしれないし、栄光の過去かもしれない。どちらも歴史ではあるんだけども、まだその過去を歴史として背負いきれないっていうか、まだ過去というだけで止めておきたい、みたいな。
  9. 澤田:面白いね。
  10. 近内:何なんだろう。わかんないけども、定年退職した後に同窓会で同じ話をすると、自分はある種現役から降りてるから、過去が歴史になってるっていうか。でも、まだ具体化できてないんだけれども、現役時代の間に歴史化するっていうのも可能なのか。

  1. 近内:あ、わかった。だから人間には通過儀礼とか、冠婚葬祭みたいな儀式が必要なんだと思う。そういう節目を意識すると、それまでが歴史として登録されるみたいな気がしません?
  2. 澤田:なるほどね。
  3. 近内:例えば結婚するとか、子どもが生まれるでもいいし、転職するでもいいんだけど、そのときに、ちょっと過去を歴史めいたものへと、一回振り返ってみましょう、みたいな。
  4. 澤田:なるほどね。今の話はあれだよね、つまりメタファーとして、現役時代があるとしても、定期的に過去を歴史にする句読点みたいなものが、人生にはあった方がいいって。
  5. 近内:だからよく、人生の節目とか分岐点とか、あるいは転換点とか、僕の言葉で言うと、一つの言語ゲームが終わって新たな言語ゲームが始まるときに、我々は多分、人々で集まるとか、セレモニーめいたものをやるとかっていうことによって、パブリックに、自分の信頼する仲間たちに見届けてもらって、一つ歴史になったねっていう、お祭りのような気がする。
  6. 澤田:なるほどね。自分の過去を歴史化する重要性って、めちゃくちゃわかるっていうか。まさに結婚とか家を買うとか転職とかそうかもしれないけど、なんて言うんだろう、きっぱりと生まれ変われるというか、潔く輪廻転生できる気がする。
  7. 近内:うんうん。
  8. 澤田:結婚しましたって言ったときに、これまでの自分の歩んできたものが全て過去だと、連続性の流れの上で結婚することになる。もちろんそれはいいんだけれども、結婚するっていうのは社会的な立場とか自分というポジションが変わることだから。一人身から夫へとか。そういうポジションチェンジが起こるから、一回生まれ変わっといたほうがいいよ、一回過去を歴史としてパッケージ化したほうがいいよ、みたいな。だからそれは、同窓会で「あの頃は良かったね」っていう過去に退行するような振る舞いじゃなくて、輪廻転生するための、むしろ新しく蘇生するための行為だから、ちょっと意味合いが違いそう。
  9. 近内:うん、違いますね。
  10. 澤田:ノスタルジーっていうのは、ただ過去を過去として言ってるだけで、そこに歴史性みたいなものへ変える必要性が抜けている。もしかしたら、ビジネスにおけるノスタルジー商法みたいなものは、歴史じゃなくて「この過去いいよね」って単独のそこだけを取り出してるから、やりすぎるとちょっと不健全なものを感じる。
  11. 近内:なるほど。めっちゃ面白いな。過去と歴史っていう対比は、すごく重要な腑分けな気がしますね。
  12. 澤田:確かに、CMで懐メロのアレンジを使うっていうのは過去への退行っぽいんだけど、それこそ歴史で言うと、フランシス・フクヤマの『歴史の終わり』っていう書は、ノスタルジーっていうよりは、これまでの東西冷戦も含めて、資本主義と共産主義も含めて、ここまでの歴史を一旦パッケージ化して、これからは資本主義っていう一つのイズムに向かって世界が突き進んで平和になります、みたいな。まあその予想は外れてるわけだけれども。
  13. 近内:(笑)
  14. 澤田:ある意味、ノスタルジックっていうよりは、これまでの人類史をヒストリー化しようとしたっていう時点で、賛否はあれど、なかなかチャレンジングな行為なんじゃないかって改めて思います。……お前がフクヤマ語るんだって話ですね。
  15. 近内:いやいやいや。
  16. 澤田:誰だお前、だよね(笑)。

  1. 近内:今ふと思ってたのが、「過去」の対義語は現在、あるいは未来。じゃあ「歴史」の反対って何が入るんだろうって。
  2. 澤田:ないんじゃないですか、対義語。
  3. 近内:歴史に対して……未知なるもの、とか。やっぱり歴史って、すでに知ってるものとして編み上げるっていうのが歴史編纂だから。そういう意味で言うと、未編集なもの、未知なものっていうのが歴史の反対なのかな。
  4. 澤田:過去と未来が時間っていう軸の上で対極にあるとしたら、まず歴史は何の軸の上にいるかって話だと思っていて。そのときに、軸は存在するのかって思ってしまうというか。
  5. 近内:うんうん。歴史って網目になってるっていうか。この出来事があって、この出来事があって、これが第一次世界大戦っていう一つの大きなパッケージですよ、みたいにパッケージを作るのが、歴史を物語るっていうこと。その反対は、未編集の、まだバラバラの断片だけとか、この断片がどういう出来事としてまとめられるかがまだわからない、みたいな。
  6. 澤田:じゃあダークマターじゃない?
  7. 近内:それ的なものっていうか。何が編まれてるかもわかんないし、編まれるかどうかもわかんないし、編まれてきたかどうかもわかんないもの、みたいな。歴史が物語るものであれば、その反対は物語ることができないもの。だから対義語が難しいな。
  8. 澤田:歴史の素材で言うと、時間の積み重ねとか人類史のレイヤーみたいなものが、それこそ「編む」っていうメタファーで言うと経糸が大量にあって、それが教科書の編集方針によって編まれるとこういう感じになる、みたいなものがすでにある状態だとすれば、対義語は、経糸もないし編むかどうかもわかんない、みたいなことだから。
  9. 近内:そう。だから積極的な形では名付けることができないものかもしれないですね。否定的な形でしか、つまり「編み上げられないもの」とか。例えば第一次世界大戦にはどのような意味があったのか、あれは何を意味していたのか、っていう意味を獲得する。歴史にした瞬間に、その反対は無意味なもの、まだ意味が確定していないもの。
  10. 澤田:うんうんうんうん。
  11. 近内:そうだ、わかった。自分が同窓会で感じたもやもやって何だろうと思ったのは、過去の意味が確定してしまうことへの抵抗だったのかもな。オープンなままでいたい、過去を過去のまま解き放っておきたいというか。歴史化するってやっぱりさ、正史として書いて、「これが我々の3年間だったのである」、これはもう教科書に載ります、みたいな。
  12. 澤田:なるほどね。
  13. 近内:揺るがすことができない、改訂されない過去っていうものに変わってしまうことが、なんか嫌だったのかな。
  14. 澤田:なるほどね。
  15. 近内:まだ未来の出来事と紐づいた形で、過去を語り直したい。語り直すことができなくなることへの抵抗だったのかもね。
  16. 澤田:そうかもしれない。

  1. 澤田:関係するかわかんないけど、マクルーハンが『メディアはマッサージである』の中で語ってた、「バックミラーで未来を見る」っていう話をふと思い出して。自動車が登場したときに、人はそれが何なのかを定義できないから、過去を引っ張り出して「馬のいない馬車」っていうふうに捉えた。テレビだったら「絵の出るラジオ」とか。
  2. 近内:ああ、なるほど。
  3. 澤田:過去に見聞きしてきたものをヒントに、未来からやってきたものを捉えていたんだけれども、そうやって一旦「こうだ」ってバックミラーで定義付けたものって、全て歪んでいたっていうか、本質は違うじゃん、みたいなことだと思っていて。
  4. 近内:うん。
  5. 澤田:だから同窓会に参加して、本当は僕らは未来を向いているはずだし、同窓会に参加するのも、気の知れた仲間たちと会って、より良い明日以降を過ごすためっていうことだと思うんですよね。本来的には、フロントガラスから前の景色を見なくちゃいけないはずなのに、バックミラーで未来も含めていろいろ見ちゃってるっていうか。「過去のお前はこうだったから、これからもお前はこうだよな」じゃないけど、「近内はあのときこうだったから、これからも馬のいない馬車だよな」みたいな。
  6. 近内:(笑)
  7. 澤田:バックミラーで未来を語る論法で、自分が固定化されていくのが嫌なんじゃないかなとか、そんな印象を受けました。

  1. 近内:それで言うと、今つながるかわかんないけど、僕、車を運転しないし免許も持ってないんですけど、運転に慣れてる人って、バックミラーで空間把握ってちゃんとできるんですか? バックミラーで空間把握するって、相当脳の認知として難しくないですか。ミラー越しに後ろを見るって、最初のうちは向きを間違えちゃわない?
  2. 澤田:左右は間違えないけど、おっしゃる通り、運転初期は当然前しか見えないけど、ちょっと慣れてくるとバックミラーも見られるようになって、もっと慣れるとサイドミラーも。別に車線変更しないときも、僕チラチラ見るんですけど、それってなんか、スターリンクから自分を見てる感覚っていうか。
  3. 近内:運転したことないんだけど、今頭の中で想像してみたんですよ。そうすると多分、運転席にいる自分という意識よりは、多分空間全体を車の上の方から見るみたいな意識に変われば、ミラーを見て、どこから何が来てて、どっちにどう曲がればいいかが把握できそうだなと思ったんですよね。
  4. 澤田:うんうんうんうん。
  5. 近内:そう、わかった。つまり同窓会で語ると、過去を俯瞰して見てしまうのが嫌なのかな。
  6. 澤田:あー、それもあるかもな。
  7. 近内:なんだろうな。でもさ、サイドミラーって結構マジカルなものだと思ってて。だって運動の方向が逆じゃん。自分は直進してるのに、鏡に映ってる映像は後ろに伸びていくわけじゃん。すごく呪術的な……
  8. 澤田:マクルーハンらしいな。
  9. 近内:とてもマジカルというか、呪術的なことをやってるんだっていう雰囲気もありそうな気がするな、このメタファーって。
  10. 澤田:そうだね。まさに身体拡張感はすごいかも。……ちなみにこのポッドキャスト、意外といい話から始まっちゃってるけど、構成的にはこれ結構いい感じだね。
  11. 近内:いい感じじゃないですか。
  12. 澤田:こんな話のところに、いきなりゆるい話を差し込むと……物理的なビジョンというか、人が視覚で世界を捉えるっていうことをどこまでずらせるんだろうって、あるとき興味を持ったことがあって。僕は本業でスポーツをいっぱい作ってるんですけど、10年ぐらい前に「膝ラン」っていうのを作って。左右の膝にスマホみたいなカメラを設置して、Oculusみたいなゴーグルをかぶるんだけど、右目は右膝の視点、左目は左膝の視点。普段の自分よりも50センチぐらい低い目線で走ったらどうなるか、っていうのをやったことがあって。
  13. 近内:へえ。
  14. 澤田:そのときはスタビライザーみたいなのをつけてなかったから、めちゃめちゃ画像が上下に揺れて、みんなすぐ酔っちゃって、ダメだってなったんだけど。さっきのバックミラーやサイドミラー的な、新しい視点の獲得とか、物理的に視点をずらすってことに、僕は結構興味があって。それだけで、やっぱり世界って変わるっていうか。例えば車椅子体験で街を走ったことがあるんですけど、まず歩きタバコの人が超怖くなる。
  15. 近内:そうか、目線にくるのか。
  16. 澤田:あと、電車に乗るのが超怖いし。だから、視点をもっとずらしたい欲みたいなのが僕はすごくあって。そういう意味で言うと、同窓会で「お前はああいうときに嫌だったから、お前はこういうやつだよな」みたいに、バチッと定義されて、そのまま広辞苑とかWikipediaに載せておけ、みたいな。定義化されることへの抵抗みたいなのは、僕もすごく強いかもしれない。揺らいでたいっていうか。

  1. 近内:揺らぐっていうのと、さっきのバックミラーもそうだし、膝のカメラもそうだけど、僕ね、多分人よりも、何かに「酔う」ってことに敏感なのかもしれない。
  2. 澤田:酔う。
  3. 近内:酔いそうだなって、話を聞いただけで思ったんですよ。膝につけたカメラで、ブレの補正をしないでOculusをかけて見てたら、酔う気がするって思えて。酔いたくない。つまり、身体感覚と視覚がずれると、多分僕らって酔うんですよ、きっと。
  4. 澤田:その通りです。期待とずれるとね。疲れ、疲労っていうのもそういうものらしいんですよ。認識と体の疲労感がずれてると、疲労として深く感じるみたいな。
  5. 近内:だから同窓会で喋ってるとき、俺、酔いそうだなと思ったんだよな。感覚がずれそうになっちゃうのかな。
  6. 澤田:なるほど、面白い。
  7. 近内:「酔う」っていろんな意味があるからややこしいし、すごくダブルミーニングなんだけど、酔いしれるって言ったらいい意味になるじゃん。この歌手の歌声に酔いしれる、とか。必ずしも悪いことではないんだけども。だから悪いとは思わなかったんだけど、落ち着かねえなと思ったんだよな。過去なのか歴史なのかに酔ってしまう、みたいな。
  8. 澤田:確かに確かに確かに。
  9. 近内:車酔いみたいに揺れちゃう、みたいな感じだったかもな。バックミラーも酔いそうと思ったんですよ。進行方向はこっちに向かってるのに、後ろの映像を見るとか。
  10. 澤田:なるほどね。
  11. 近内:今の膝のカメラも、酔いそうと思って。
  12. 澤田:「酔う」ってキーワード、僕実は大好きで、そこでまた膨らませちゃいそうになるけど(笑)。

  1. 澤田:でも本当に、ここまでの話、面白いね。何が主題かわかんないのが面白い。途中で、共感とノスタルジーを今日の軸にしたらいいかなと思ったけど、軸を作るのも野暮かなと思ったから、転がっていこうと思って。
  2. 近内:それでいいと思う。本当にシナプス的に連想が広がっていくというかね。気ままに広げていければいいかなと思うんだけど。
  3. 澤田:なるほどね。なんか楽しいっすね、こうやって話してるの。
  4. 近内:楽しいな。僕ちょっとやっぱりね、これポッドキャストで誰かが聞くんだよなと思うと、まとめなきゃって意識が出てきちゃうんだよね。
  5. 澤田:わかるわかるわかる、わかりますよ。僕、普段イベントで結構ファシリテーターをやるんですよ。で、タイムキープとかも結構得意で。さっきも俺、チラチラ時間見て、間もなくだなって。
  6. 近内:そうそうそうそう(笑)。
  7. 澤田:でもまあ、もうちょっとゆるくやりたいですよね、このポッドキャストは。と言いつつ、一旦第1話はこの辺ぐらいにして。ここで一旦区切ったら、第2話以降にどう話が展開するかっていう実験を、あえてしてみましょうか。
  8. 近内:しましょう。
  9. 澤田:というわけで、まだ番組名が決まってないんですけれども、初回ありがとうございました。
  10. 近内:ありがとうございました。

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